先が見えない今こそ、求められる 『逆・タイムマシン経営論』の活用
まずはこちらの文章を読んでみてください。
「目には見えないデジタルネットワークが、ひたひたと日本を侵食し始めている。企業間の商取引や提携は、ネットワークが生命線になりつつある。情報化を拒めば、淘汰されかねない。インターネットは国家の規制を乗り越え、新たなビジネスを生み出そうとしている。どの国の通貨でもない電子通貨も登場。その主導権を巡る戦いが始まり、国家による通貨管理の原則さえ揺さぶり始めた。デジタル革命はビジネスのルールを変える。」
さて、質問です。
この文章は雑誌『日経ビジネス』に「デジタル革命」の特集記事として掲載されたものですが、いつ頃書かれたものでしょうか。
答えは、1995年6月12日号です。
今わたしたちを取り巻く状況と当時の状況とでは、ビジネス環境もその後の技術進歩も大きく異なりますのでもちろん簡単に比較はできません。
企業間の商取引や提携は現代ではインターネットなしでは機能しませんし、デジタル革命はものすごい勢いで進んだともいえます。
しかし、たとえばDXや電子マネーなど現在でもわたしたちが課題と認識しているトピックが、25年前から提起されていたことなど大変興味深く感じます。
「タイムマシン経営」という経営用語があります。
すでに「未来」を実現している国や地域(アメリカや最近では北欧など)に注目し、そこで開発が進んでいる技術やビジネスモデルなどを先取りして日本に輸入し、先行者利益を獲得する経営手法です。
今、世界がコロナ禍に見舞われているとき、見出すべき未来はどこにあるのでしょうか。
米国は言わずもがな、欧州、アジアもそれぞれ政治、経済ともに苦戦を強いられています。
これまで多くの日本企業が、日本より先を行く諸外国のビジネスモデルを輸入するタイムマシン経営に活路を見いだしてきたわけですが、それぞれで未来を考えないといけなくなった今、本当に危機に強い企業を作り上げるのは簡単なことではありません。
そこで今日は最近読んだ本の中でも特にこの課題に真正面から取り組んだ本を一冊ご紹介します。
●『逆・タイムマシン経営論 近過去の歴史に学ぶ経営知』
楠木 建、杉浦 泰 (著)
未来が見通しにくい時代に大切なのは、技術革新への対応など過去の経営判断を振り返り、今の経営に生かす「逆・タイムマシン経営」だとこの本は主張します。
つまり、近過去の歴史を検証することで、変わらない本質を見出すのです。
著者の一橋ビジネススクール教授の楠木先生は、あるインタビューでこのように述べていました。
「予測は誰にもできないものです。誰でも外す、といった方が正しい。ただ、本質が分かっている人と、そうでない人の違いは明瞭です。」
不確実性の高い新型コロナのような場合でも、歴史からくみ取れる事実が判断の基準として頼りになると指摘します。
「『人間の本性』や『世の中の持っている一番基礎的な性(さが)』のようなものは変わらないからです。不確実性が高い状況での意思決定ほど、変わらない軸足が必要になります。」
この本では、何か起こったときに、「あぁ、これはいつか見た風景だな」と認識できる引き出しがあるかどうかが、本質を見極める上で重要なファクターだと強調されています。
いつも言われることですが、不透明な時代にこそ歴史から学ぶ必要があるのだと思います。
気になった方はぜひ書店でチェックしてみてください。
最後に、年末に向けてよりいっそうの感染防止、体調管理に努めてお過ごしください。