【本の話】『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』 若林 正恭 著
人気お笑い芸人によるベストセラー紀行文。
大変興味深く読んだ。
訪れる各国の描写も若林氏のつっこみ目線で描かれていたりして都度クスっとさせられる。東京から出て言葉も通じない世界へ飛び込んでいく。それも冒険心からなどではなく、どちらかというと、努めて積極的になろうとしている一人の日本人男性として。
中でも特に素晴らしいなと感じたのは、出会う景色や触れ合う人々について、著者は自分がどう感じたか、にとても忠実なところ。こうあるべきなんだろうな、とか空気を読むとこうだよな、といった意識の矯正といったものがないところ。
キューバでは、ホテルの部屋に戻ってくると「明日も、まだ行ったことがない所へ行ける」とワクワクしている。(東京にいるときは根っからのインドア派だそうだ)
モンゴルでは草原で馬の乗り方を教えてもらうと、「言われた通りに馬の上にまたがってタテガミ越しに草原を見ると、より強くモンゴルを感じたような気がした」と書く。
文章からはなにかこう清々しいものを感じる。感じたことがまっすぐに文章になっている。
そして、自分の父親との別れを回想するシーンなどを通して、なぜキューバにまでくる必要があったのかなど紀行の深い理由が明かされていく。
自分の命より大切なものとは何なのか、自分は世界でどう生きていけばいいのだろう、と訪れる各国で様々な刺激を受けながら模索していく。
お笑い芸人という言葉のプロによる一冊の旅行記としてももちろん楽しめるが、人生の中間地点にたどり着いた一人の日本人男性が、社会とあらためてどう向きあっていくかを深く考えた嘘のない記録の書でもある。
あとがきにコロナ後の東京にも触れている。
コロナ禍にあって身動きがとれない今だからこそ読みたい一冊。