日常から探すイノベーションの種
「『脱はんこ』関連法案が衆院通過 99%超の押印廃止」(4/6付 日経新聞)
デジタル社会形成へ向けた動きの一環として、いの一番に改革を求められたのが、押印文化です。
今、コロナ禍で出社ができなくなり、テレワークが推奨され、日本固有のハンコ文化の見直しが進んでいます。
社会が一気にデジタル化へ舵を切ろうとする中、ハンコ業界大手のシヤチハタ社の舟橋社長のインタビュー記事を見つけました。(日刊工業新聞)
読む前は、この状況でいかに自分たちが疲弊しているかといった内容になるかと思っていたら、意外にも語られていたのは自社のカルチャーという強みについてでした。
シヤチハタ社は、これまでも看板商品を否定するモノづくりをしてきたといいます。
「当社には、創業者が作った看板商品を“否定する”、そして次に“つなげる”商品に“トライする”企業遺伝子が受け継がれているようです。例えば初代が作った万年スタンプ台を否定するように、ネーム9を作りました。そして次はネーム9を否定するように電子印鑑を開発。実はパソコンが会社や個人宅で使われ始めた25年前から、作っていたのです。ずっと鳴かず飛ばずの細々とした商いでしたが、昨年あたりから問い合わせが徐々に増え始め、コロナ禍によって爆発的に増えました」
そして同じインタビューで、現在の日本の企業が置かれている環境を冷静に分析しています。
「ハンコを押すのは、意味があってやっていること。日本の会社の9割は中小企業ですから、コストの問題もあってか、そうそう簡単に業務プロセスを変えられません。アナログでやっていたことをそのままデジタルに移行し、低額サービスならなおよし。ですから我々にはまだまだ商機があると思っています」
政府は押印が必要なおよそ1万5000の手続きのうち、99%超を廃止する方針だそうです。
これほど分かりやすい逆風が吹く中で、いかに商機を見出すか。
シヤチハタ社のアプローチは参考になります。
たとえば、同社には「手洗い練習スタンプ おててポン」という商品があります。
手のひらにスタンプした印影をしっかり洗い落とすことで、楽しみながら手洗いの練習ができるという優れものです。
せっけんを使い約30秒洗うだけで、スタンプが消えます。
特殊なインキを使用し、残るのではなく「消える」ハンコを生み出し、発売以降、累計約40万個を販売しています。
発案者はデジタルマーケティング部商品企画課所属の松田さん(35才)という社員で、彼は二人のお子さんを持つパパでもあります。
感染予防として手洗いが重要といいますが、手洗いの方法を子どもにどう教えればいいのだろうかと考えたそうです。
松田さんによると、アイデアの源は日常交わされている「会話」だといいます。
お客さまなどと会話を積み重ね、日常生活に根付くちょっとした問題を発見する。そしてハンコに捕らわれずアイデアを考えるのだと。
日常生活や職場で、雑談やコミュニケーションを図る機会が減ってきています。
私たちはイノベーションの種をどこに見出せばよいのでしょうか。
普段の生活で感じる微妙な違和感を感じ取ったり、何気ない会話の中にヒントがないかをアンテナを張り巡らせ、より意識することが大事になってくるのだと思います。
そして、舟橋社長のコメントにあったとおり、安易に社会の気運に流されず現状を冷静に見つめる、これも大切なポイントです。
毎日をより意識することの大切さを教えてくれる事例でした。
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参考記事:
「脱はんこ」関連法案が衆院通過 99%超の押印廃止
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA05B5U0V00C21A4000000/
シヤチハタが脱ハンコの中でイノベーションを起こす秘訣とは?
https://newswitch.jp/p/26775#:~:text=%E6%9C%B1%E8%82%89%E3%81%AE%E3%81%84%E3%82%89%E3%81%AA%E3%81%84%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%82%B3%E3%80%8C%E3%82%B7%E3%83%A4%E3%83%81%E3%83%8F%E3%82%BF,%E5%95%86%E6%A9%9F%E3%82%92%E8%A6%8B%E3%81%84%E3%81%A0%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%82
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https://newswitch.jp/p/23624