ALL REVIEWS 巻頭言から:古書の付加価値を再考

もう何年も前になりますが、イギリスのエディンバラを旅したことがあります。

世界遺産に登録されている美しい街並みや、『ハリーポッター』シリーズの舞台ホグワーツ魔法学校のモデルとなったエディンバラ城、『シャーロック・ホームズ』の作者アーサー・コナン・ドイルの出身地として知られるなど、実に魅力にあふれた街でした。
もちろんこの街で飲むことのできる各種スコッチウィスキーの魅力については説明不要だと思います。
例によって千鳥足でパブ巡りをしていますと、街のところどころにひっそりと古書店があることに気づきました。
入ってみますと様々な時代のコレクションがそろっており、革張りの美しい装丁を見ているだけでもうれしくなります。
アルコールの力も借り、一冊購入しました。愛読書の一つ、ラドヤード・キプリング著『少年キム』です。発行年は1918年とありました。
革表紙から指に伝わる少しヒヤッとする感覚、薄めの紙に細かく印字された昔風のフォント、歴代の所有者がなにやら書き込んできた小さなメモや引かれた線など、古書には記された物語を読むだけでない、特別な楽しみ方があると感じたものです。
それは商品そのものの価値を超えた特別なバリューといってもいいのかもしれません。
文学都市エディンバラでの大事な思い出となっています。

今週の新着書評を見てみますと、『世界の古書店』(書評は鹿島 茂さん)が取り上げられていました。
鹿島先生はヨーロッパの大都市では、地価や家賃が上がりすぎて、古書店のような上がりの少ない商売はやっていけなくなってきていると指摘されています。数年前に私が巡ったエディンバラの古書店も、今はさらに数が少なくなっているのかもしれません。
このメルマガの読書の皆様におかれましては、コロナ禍が落ち着いた後の旅行案にはぜひ、この「古書店巡り」も候補に入れていただきたいと思います。

なお海外へ行かれる前にひとつお知らせを。日本が世界に誇る古書街、神保町で新しい取り組みが始まっているのはご存知でしょうか。
この「ALL REVIEWS」の延長という位置づけで、神田神保町すずらん通りの一角に、共同型(シェア型)書店〈PASSAGE by ALL REVIEWS〉が3月に誕生しました。
この本屋では作家や書評家、出版社、あるいは読者個人らが、店内で棚単位で出店することができます。それぞれ自分の棚で販売する本は棚主が自由に選ぶことができます。中には棚主が実際にメモを取りながら、付箋を貼りながら、線を引きながら読んだ本も売られています。購入者はそれらの本を通して、棚主である作家や書評家の読書中の思考を辿る追体験をすることができるのです。なかなか体験できることではありません。古書だけの素敵な付加価値といえます。

お近くに来られた際はぜひ立ち寄ってみてください!

それでは、今週も素晴らしい書評の数々をお楽しみください。

Fabio 




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