All Reviews巻頭言から: 紛争を昇華させる想像の力
今週も世界情勢は予断を許さない状態が続いています。
ある日突然、街が戦場へと変わり、通常生活は奪われ、難民となって国を追われるという想像すらできないような状態が、現在進行形で起きてしまっていることに胸が痛みます。今週の週刊ALL REVIEWSでは、セルビア系アメリカ人の小説家、テア・オブレヒトによる『タイガーズ・ワイフ』(書評は小野 正嗣さん)が取り上げられています。
テア・オブレヒトは1980年代にベオグラードで生まれ、戦争が勃発した直後に家族とともに国外へ逃れています。
キプロスとエジプトに暮らした後、最終的には米国に定住しています。
作中には具体的な国名こそ出てきませんが、旧ユーゴスラビアを追われ、家族とともに異国で生きることを余儀なくされた作者に、母国はどのように映っていたのでしょうか。
大学に通いながら書いたとされる本作では、そんな彼女と彼女の家族の文化的遺産が詰め込まれています。
評者・小野さんは「全編に死が満ちた本書は、死者とどのように別れを告げ、どのように共に生きていくかについての書でもある。張りつめた悲しさと物語の快楽の共存。」と書かれています。
私も初めて読んだのは数年前になりますが、今まさにこの情勢の中でこそ読み返したい一冊です。
今週も素晴らしい書評の数々をお楽しみください。
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