「どうでもいい仕事」との決別

書店でビジネス書ランキングを眺めていますと、世の中のビジネスパーソンは今、どんな分野に関心を持っているのかが見えてきます。
もっといえば社会は今、どんなことを課題として認識し、解決しようとしているのかといった世相が見えてきます。

新刊ビジネス書情報誌『TOPPOINT(トップポイント)』は、1万名以上の定期購読者を対象とした定例の読者アンケートを行い、「トップポイント大賞」を選出しています。
2020年下半期、コロナ禍の真っ只中でビジネスリーダー1万人は、どんなビジネス書に感銘を受けたのでしょうか。
興味深い本が選ばれていました。

『ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論』 デヴィッド・グレーバー 著

仕事や生活のあらゆる面でIT化など効率化が進み、欧米では過去数十年で労働生産性が大きく上昇しました。
にもかかわらず、労働時間は減らず、報酬も平行線をたどったままです。
著者のグレーバー氏はその原因は管理部門や金融部門などの「完璧に無意味で、不必要」な「ブルシット・ジョブ(BSJ)」の増加にあると指摘し、真に価値のある仕事とは何かをこの本の中で問い直します。

さて、衝撃的な言葉ですが、「ブルシット・ジョブ(BSJ)」とは何のことでしょうか。

訳者の酒井 隆史氏によると、グレーバー氏はこのように説明していたといいます。
「BSJとは、あまりに意味を欠いたものであるために、もしくは、有害でさえあるために、その仕事にあたる当人でさえ、そんな仕事は存在しないほうがマシだと、ひそかに考えてしまうような仕事を指している。もっとも、当人は表面上、その仕事が存在するもっともらしい理屈があるようなふりをしなければならず、さらにそのようなふりをすることが雇用上、必要な条件である」

もっと詳しく見てみましょう。
8月30日の日経新聞朝刊に、BSJに関連して具体的な仕事例を挙げた論説が掲載されていました。
朝からドキッとさせられる特集記事でした。

「こうした仕事は5つの類型に分類できる。
▼誰かを偉そうにみせるための取り巻き
▼雇用主のために他人を脅迫したり欺いたりする脅し屋
▼誰かの欠陥を取り繕う尻拭い
▼誰も真剣に読まないドキュメントを延々とつくる書類穴埋め人
▼人に仕事を割り振るだけのタスクマスター」

さらに記事によれば、ある調査では「熱意あふれる社員」の比率が日本は6%で、139カ国中132位。
別の調査でも、仕事を面白いと思う日本人の割合は男性43%、女性50%で、調査対象の31の国・地域の中で下から2位と3位だったとのことです。

イノベーションを起こすには、自発的・積極的に課題に挑む人材が不可欠ですが、「言われたことだけをまじめにやる」「長時間勤務をいとわない」といった過去の労働規範から決別し、生き生きと意欲的に働ける職場が増えないと、日本の未来は厳しいだろうと記事は主張しています。
コロナ禍も相まって、テレワークの普及など仕事の形は今後も変化していくだろうが、大切なのはいかにBSJを減らし、意味の実感できる仕事を増やせるかだ、と結論付けています。

この記事に関し日経電子版では、ソニーの元・CEO平井一夫氏(現・ソニーグループ シニアアドバイザー)がコメントを寄せています。
「BSJを減らし、意味の実感できる仕事を増やすこと」には大賛成と前置きし、一方で現場の社員から改革するのは難しいだろうと述べています。
真剣にどうでもいい仕事を減らそうと思うならば、まずは会社の経営陣が社員に見える形で改革を持続的に実行し、模範となることが大事だろうと。
また、過度な演出が目立つパワーポイントや時間がかかる無駄な仕事に対しては、その作成や作業にかかったコストをマネジメント側が問うシビアさがあるべきで、その姿勢が社員の意識改革にもつながるのでは、と厳しく問題提起しています。

現場で業務に携わる社員のみならず、経営陣も一丸となって、企業全体でこの問題に取り組むことで、社員の意識改革につなげていく。
これはそのまま、働き改革にもつながるものと感じました。

気鋭の人類学者だった著者のグレーバー氏は、残念ながら2020年9月に急逝しました。
最後に人生をかけて著した仕事論、興味を持った方はぜひ書店でチェックしてみてください。
コロナ禍において、自らの仕事について振り返るのに適した一冊だと思います。

『ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論』 デヴィッド・グレーバー 著
https://www.iwanami.co.jp/book/b515760.html




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