戦略の本質について
いつの時代も、その時々でもてはやされるビジネスワードというのがあると思います。
そんな流行りワード(今ならバズワードとでもいうのでしょうか)を使いながら仕事や、ディスカッションをしていると、なんとなく時流に乗りながら最前線で物事を考えている気になってしまいがちです。
たとえば、最近では「AI」や「サブスクリプション」、「DX戦略」といった言葉を耳にしない日はありません。
しかし、DXにしても、本来は「手段」でしかないはずです。
であれば、やみくもにDXを推進すればいいということではなく、場面と状況を考えながら独自の戦略を考える必要があります。
本日ご紹介する楠木建氏(一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授)は、DXならDXという手段によって自分たちは何を達成したいのかを吟味し、目的に対してそもそもDXという手段は有効なのかどうか、など個別の企業の商売の文脈の中で考えよ、と説いています。
あるインタビューでこのように話していました。
「DXが大切なのは言うまでもないんですけど、それは『健康って大切だよね』と言っているのと同じではないでしょうか。デジタル技術で物事を効率化することそれ自体はいいに決まっている。スポーツをする人が『足が速いことは大切だよね』と言っているようなものに近い」
「相撲取りにとっての足の速さと、陸上選手にとっての足の速さは違います。だから『DXに乗り遅れるな』は、その通りなんだけれども『具体的に何をどうするのか?』が大切です」
もっともです。
さて、今回そんな楠木先生の著書『ストーリーとしての競争戦略』を読み返す機会がありました。
所属している社会人勉強会の課題で、戦略立案について取り組む機会があったためです。
第1刷発行は2010年ですが、あらためて書かれていることの有効性はますます増していると感じました。
今のコロナ禍を生き抜く上でも必要となる戦略のカギを学ぶことができるのではないでしょうか。
たとえば、
・大きな成功を収め、その成功を持続している企業は、戦略が流れと動きを持った「ストーリー」として組み立てられている
・戦略とは、必要に迫られて無理やり作るものではなく、誰かに話したくてたまらなくなるような、面白い「お話」をつくるということ
・戦略を構成する要素がかみあって、全体としてゴールに向かって動いていくイメージが動画のように見えてくるのが良い戦略
などなど、本書では、多くの実際の企業事例をもとに「ストーリー」という視点から、競争優位をもたらす論理を解明しています。
本書の最後に戦略ストーリーの「骨法一〇カ条」として下記の項目を挙げていますので、ご紹介します。
*骨法その一 エンディングから考える
*骨法その二 「普通の人々」の本性を直視する
*骨法その三 悲観主義で論理を詰める
*骨法その四 物事が起こる順序にこだわる
*骨法その五 過去から未来を構想する
*骨法その六 失敗を避けようとしない
*骨法その七 「賢者の盲点」を衝く
*骨法その八 競合他社に対してオープンに構える
*骨法その九 抽象化で本質をつかむ
*骨法その十 思わず人に話したくなる話をする
戦略を考える上で勉強になるのはもちろんですが、その軽妙で独特な語り口もあって、読み物としても肩肘張らずに読み進めることができます。
競争戦略に限らず、戦略そのものを理解、立案することについて書かれた大変優れた一冊です。自信を持ってお勧めしたいと思います。
まだ読まれていない方は、ぜひ書店でチェックしてみてください。
これから暑い日が続きますので、どうぞお体に気を付けてお過ごしください。
『ストーリーとしての競争戦略』楠木建 著
https://str.toyokeizai.net/books/9784492532706/