いま読む、世界を変えた100のスピーチ
いよいよ来週に迫った米国大統領選挙。
第2回テレビ討論も終わり、終盤へ向けて両陣営の活動はさらに活発化している。
討論会の様子を見て政治学者イアン・ブレマーがひとことツイート。
“Obama would’ve destroyed either of these guys.”
(オバマ前大統領であれば両候補ともに打ち負かしていただろう)
私は演説やレトリックに関心があり、言葉の力について解説した本はこれまでも好きで結構読んできた。
今日ご紹介の本もそのコレクションにぜひ加えたい一冊。
『世界を変えた100のスピーチ』
コリン・ソルター 著・大間知知子 訳
この本は週刊ALLREVIEWSでも取り上げられていたのでさっそく手に取って読み始めた。
いわゆるスピーチ集といったものは多くは過去の偉大な政治家、特に近代史で活躍したリーダーたちの演説を集めたものが多いと思う。
しかしこの本はトップバッターがソクラテス、次にアレクサンドロス大王が続く。最後はイーロン・マスク、オプラ・ウィンフリーで締めくくっている。
それぞれに解説もつき、どのようなシチュエーションで話された言葉なのかも説明してくれる。古代ギリシャから現代までを演説で読み解いた、歴史の本でもあった。
収められている演説は善人のものばかりではない。
ケネディやマンデラといった私たちがイメージするリーダーばかりではなく、ヒトラーやビンラディンといった人物の演説まで取り上げており、登場人物が実に多彩だ。
今回、中でも心を打ったのがキング牧師が1968年4月3日に行ったスピーチだ。
“I’ve been to the mountaintop.”
「私は山の頂に行ってきた」
キング牧師はこの演説を行った翌日に宿泊していたモーテルで銃撃され、命を落としている。
内容もまるで自分の身に何が起きるかを予見していたかのようだ。
下記に抜粋する。(P. 116)
「誰でもそうだと思うが、私もできれば長生きがしたい。長生きすればいいこともあるからだ。しかし今ではもうそのことは考えなくなった。私はただ、神の御心を果たしたいだけだ。神は私が山の頂に上るのを許された。私は四方を見渡し、約束の地を見たのだ。私はあなた方とともにそこへ行くことはできないかもしれない。しかし私は今夜、われわれがひとつの民族として約束の地にたどり着くであろうことを、あなた方にわかってもらいたい。今夜、私は幸せだ。何を恐れることもなく、誰を怖がることもない。私はこの目で神の到来の栄光を見たのだ!」
このスピーチは、旧約聖書の初期のリーダー、モーゼを彷彿とさせる。
モーゼはイスラエルの民を率いて約束の地まで導いたが、その約束の地に入ることはかなわなかった。
訳者あとがきで大間知 知子さんは、「過去の人々の言葉の中に、未来を生きるための力と指針を見つけることができるだろう」と書かれている。
超大国のリーダーが決定する今こそ、言葉が持つ力について深く考えたいと思う。