NY Times 伝説的書評家・ミチコ・カクタニ氏の新刊について思うこと

The アメリカの新聞、と聞いて一番最初にイメージするのは「ニューヨークタイムズ」ではないだろうか。私にはずっとそんなイメージがあった。
映画にもよく出てくるし、海外小説にも新聞社の代名詞みたいに登場する。

昔から本が好きだったので新聞の書評はよく読んでいたが、あるときからこのニューヨークタイムズの本のコーナーもチェックするようになった。

すると明らかに日本の名前でいろいろな本の批評をしている人がいて、この人は日系の人なのかなと思っていたら、二世だった。
アメリカの文芸界で一番恐れられた書評家、ミチコ・カクタニ氏がその人だ。

とにかく褒めるときも辛口のときも断定的で遠慮がない。

人気ドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』でも、主人公キャリーが執筆した本をカクタニがきっと貶すに違いない、と悩むシーンがあった。

ピューリッツァー賞も受賞している大変高名な批評家だが、文章は常にとても難解だったことを覚えている。いつも読み解くのに苦労した。


2017年7月に書評担当から退任しており、今は執筆活動に専念しているようだ。インスタグラムにも素敵な写真をアップしている。
オバマ前大統領が引退する際に文学や本、読書が与えた影響について彼にインタビューしている。すばらしい記事なのでぜひ読んでみてほしい。こちら


引退後の2018年6月のインタビューでは、とりわけ素晴らしいと思われた本について聞かれ下記の7冊を上げていた。ご参考まで。

1. Underworld by Don DeLillo 『アンダーワールド』ドン・デリーロ 
2. Beloved by Toni Morrison 『ビラヴド』トニ・モリスン
3. Thank You for Your Service by David Finkel 『帰還兵はなぜ自殺するのか』デイヴィッド・フィンケル
4. The Goldfinch by Donna Tartt 『ゴールドフィンチ』ドナ・タート
5. Life by Keith Richards 『ライフ』キース・リチャーズ
6. The Man Who Mistook His Wife for a Hat by Oliver Sacks 『妻を帽子とまちがえた男』オリバー・サックス
7. Lincoln: The Biography of a Writer by Fred Kaplan 

数々の書評を書いてきた彼女だが、この度あらためて自身が愛してやまない書物100冊を厳選の上、それらについて書いたエッセイ『Ex Libris: 100+ Books to Read and Reread』が出版された。
我々が暮らすこの世界を照らしてくれる100冊を、美しいイラスト共に取り上げた本だそうだ。
早速注文してみた。


前作『真実の終わり』でも現在のアメリカを深く憂えており、文学が果たす役割について模索している様子が伝わってくる。

今回の新作の出版にあたり、英・ガーディアン紙でインタビューが行われている。
下記、いくつかやりとりを抜粋。

(拙訳)

Q:批評家として業界では広く恐れられていたと思うが、どのような責任感をもって取り組んでいたか?
A:私はタイムズでレポーターとして仕事を始めた。最初にレビューを始めたとき、編集者から次のようなアドバイスがあった。「レポートの形式として考えてください。ただし、慎重に検討した意見を追加してください」と。それを守ってきた。

Q:長きにわたって担当してきた中で、文学シーンにはどのような傾向があったと思うか?
A:1990年代から2000年代初頭にかけては、メアリー・カーやデイブ・エガーズに代表される回想録がブームになった。過去数十年で、移民または移民の子供たちの年代から多くの注目すべき作家の出現を目撃してきた。たとえば、ジュンパ・ラヒリ、ジュノ・ディアズ、ゲイリー・シュテインガルト、チママンダ・ゴジ・アディチー、エドウィージ・ダンティキャット、マーロン・ジェームズ、オーシャン・ヴォン、テア・オブレヒト、ヴィエット・タン・グエンなどなど。(Jhumpa Lahiri, Junot Díaz, Gary Shteyngart, Chimamanda Ngozi Adichie, Edwidge Danticat, Marlon James, Ocean Vuong, Téa Obreht, Viet Thanh Nguyen)

同インタビューの最後には、間近に迫った大統領選挙についても答えている。
現政権になって失われてしまった民主主義の確立、法の支配、そして真実が正しく報道されるべきことなど、今のアメリカに対する憂慮の思いを述べている。

新作を読んだらまたレビューしたい。

レジェンド書評家からまだまだ目が離せない。


以 上

 






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