「パクス・アメリカーナの終焉」ポール・クルーグマンのコラムから、今考えること

何度かニューヨークタイムズについてはこのブログでも触れてきたが、同紙を代表するコラムニスト、ポール・クルーグマンが米国大統領選挙を直前に控え、超大国アメリカ統治の変容ぶりについて書いている。

クルーグマンといえば、寄稿するコラムが市場を左右するといわれるほど影響力がある人物とされ、2008年にはノーベル経済学賞も受賞している。

そんなクルーグマンが10/29付で寄稿している記事がこちら。
題して『Trump Killed the Pax Americana』。 
(拙訳)トランプが終わらせたパクス・アメリカーナ
                (パクス・アメリカーナ:超大国アメリカの覇権が形成する「平和」)

こちらも過去にも取り上げたが、折しも日経新聞では『パクスなき世界』の第2弾が始まっている。
古代ローマの平和と秩序の女神「パクス」が消え、人類の価値観の再構築が問われているのがまさに今この時代。
超大国アメリカのリーダーは単なる一国のリーダー、に止まらない。世界の行く末を左右する影響力を持つ、大帝国統治者という面もあると思う。影響を受けない国はない。

コラムの中で、来週の大統領選挙でたとえバイデン候補が勝ったとしても、ここまで落ちてしまったアメリカの信用を取り返すには、何十年あるいは何世代もかかるであろう、と書いている。
アメリカが過去数十年間、世界の歴史において果たしてきた役割と実績を振り返りながら、昨今の凋落ぶりを憂えている。
そしてここから始まるパクス・アメリカーナの行く末についても論じている。

下記に要約して紹介させていただく。
来週以降の世界がどう変化していくのかを考えるためにも、今、心して読むべき記事。

出典:https://www.nytimes.com/2020/10/29/opinion/trump-trade-international-relations.html?auth=login-email&login=email

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〇トランプ大統領が敗北した場合
・米国の政治において、分別と協調の復活が見られるという考えは絶望的にナイーブ。
・2020年代は米国の二極化が進み続け、異常な陰謀説に溢れ、恐らく右翼テロに悩まされる。

〇トランプのレガシー(遺産)
・実は彼が来る前から米国はすでにこの道を進んでいた。
・反対に民主党が大勝した場合、トランプの実質的な政策の多くが逆転するだろう。
→環境保護と社会的セーフティネットは、オバマ政権下よりもかなり強固なものとなり、富裕層への課税はさらに高くなる。

〇米国の役割
・トランプのレガシーは国際問題でも永続的に影響を及ぼし続ける。
・過去70年間、米国はどの国も果たしたことのない特別な役割を担ってきた。
・今、米国はその役割を失っており、どうすればそれを取り戻すことができるのかがわからない。
・たしかに米国政府の行動はこれまでいつも正しいというわけではなかった。
→ ひどいことをし、独裁者を支援し、イランからチリまで民主主義を弱体化させた。
・多国籍企業のために、世界を安全にすることが目標のようなときもあった。
・しかし、アメリカは粗野な搾取者ではなかった。
→ Pax Americanaは1948年のマーシャルプランの制定から始まった。それは、征服国が敗北した敵の再建を支援することを選択したときから。米国はその約束を守ってきた。

〇米国の役割:(例)
・米国が主導したこれら貿易ルールにより政府が市場に介入する能力に制限を課すことができた。
・規則が整ったら、米国は自らその規則に従ってきた
→ 例)ジョージ・W・ブッシュ政権時の鉄鋼関税の場合のように、世界貿易機関が米国に反対する判決を下したとき、米国政府はその判決を受け入れた。
・米国は同盟国の側に立ってきた。
→ ドイツや韓国との貿易やその他の紛争があったかもしれないが、どちらかの国が侵略された場合に、米国が援助するかどうかなど誰も考える必要はなかった。

〇トランプがそれをすべて変えた
・単にNATOへの支出額が少ないからという理由で、欧州各国を守らないと示唆する大統領がいる国は、同盟国として信頼されるだろうか。

・長年の民主主義同盟国よりも、民主主義が事実上崩壊したハンガリーのような国や、サウジアラビアのような殺人的な独裁政権により友好的であるように見えるとき、米国は依然として自由世界のリーダーといえるだろうか。

〇トランプが敗北した場合
・バイデン政権はおそらく世界における米国の伝統的な役割を回復するために最善を尽くすだろう。
・貿易ルールに従い、パリの気候変動協定に再び参加し、世界保健機関から撤退する計画を撤回する。
・米国は同盟国に我々が援助すること保証し、他の民主主義国との同盟関係を再構築する。

〇しかし、一度スクランブルした卵を戻すことはできない
・今後数年間で米国が善きグローバル市民として行動したとしても、米国はトランプのような人物を選出した国であり、再び同じことを行うことができる国であることを、誰もが覚えている。
・失われた信頼を取り戻すには、何世代ではないにしても数十年はかかるだろう。

〇米国への信頼喪失は腐食性の影響を及ぼす
・ある貿易専門家はかつて、米国が保護貿易主義に転向した場合の大きなリスクは、他国からの報復ではなく、エミュレーション(対抗)にあると言った。
→ 米国が規則を無視すれば、他の国は米国の例に従う。
・同じことが他の面にも当てはまる。
→ 大きな隣国による小さな国への、経済的および軍事的ないじめが増加するだろう。
→ そして、名目上は民主主義の国でも、より露骨な不正選挙が行われるであろう。

〇トランプ敗北後の世界
・もし彼が敗北しても、世界は以前よりも危険で公平性の低い場所になる。
・なぜなら、米国がそのようなことが再び起こし得る国かどうか、誰もが疑問に思うようになるから。

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まずもって、現大統領のようなリーダーを民主主義の仕組みによって選出してしまったこと。
仮にトランプ大統領が敗北したとしても、すべてが元通りになるわけではないこと。
失敗を繰り返しながらも、アメリカが過去70年間に渡って担ってきた、敗北国を支援し敵を再建させるといった役割をもう、今は担っていないこと。
国際社会においてなにより大事な、超大国としての信用を取り戻すのに、今後何十年とかかること。
その間にも、また、現大統領のような政権が生まれてしまうかもしれないという恐怖。


文章から悲しみと怒りがひしひしと伝わってきます。
パクス・アメリカーナの終焉に至り、パクスなき世界に生きる私たちが、ここからの未来を考える上で、とても重要な示唆だと思いました。

 




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