『死の舞踏』に打ち勝つ 『敬天愛人』

ここのところ毎週日曜日はテレビでドラマ「半沢直樹」を見ていた。
主人公が巨悪に敢然と立ち向かっていく姿を見てせいせいする。
とその反面、自らを振り返ってみて、自分も強い信念を持って仕事に向き合えているだろうかと考えたりする。

大人気俳優の堺雅人氏だが、個人的には少し前に放送された大河ドラマ「真田丸」の真田幸村役も好きだった。
背筋をすっと伸ばし、姿勢を正して床に座すシルエットが見ていて気持ちが良い。オフィスの椅子に「あー、この夏は暑い、暑い」とだらしなく座る我が身を振り返る。

我々は依然コロナウィルス危機の真っただ中にいる。
リモートワークの会議でも画面越しに「今日は○○○人でした。どうなるんですかねぇ」などとある種挨拶のようになり、天気の話をするような話題の共通項が一つ増えた。

テレビをつければ品薄マスクやうがい薬の効果について討議され、SNSでもトレンドに入ってくるのはコロナ関連ばかりだ。
書店に行けば経済雑誌はウィズやアフターコロナの社会のあり方を取り上げ、女性のファッション誌もお一人様の楽しみ方やリモート時代のおしゃれを特集している。

ちょっと前まで買い物に行く時間も制限されたり、居酒屋も深夜営業ができなくなったり、と前回の金融危機の時とはステージの異なる影響を日々感じさせられる。

もう一つ異なるのが「自粛警察」や「帰省警察」といった自警団の登場だ。
Gotoキャンペーンで旅行に行くことが推奨されているかと思えば、地域行政などは域外に出ることを控えるよう呼びかけているこの異常事態。
それぞれが信じる価値観で他者を制そうとする。

パチンコ店に並ぶ客の列に向かって叫びながら外出を非難する人、家族が帰省した家へ告発状を貼り付ける人、SNS上の匿名アカウントから正義感を振りかざして有名人や不特定多数を攻撃する人たち・・・。

何が私たちをこういった行動へ駆り立てるのだろうか。
彼らを自分と価値観が合わない人たちだからと切り捨てるのは簡単だ。
だけどもう少し深く考えてみる。
こういうとき何かをしていないと不安というのはよく理解できる。
でもそれが他者を傷つける方向に表出してしまう・・・。

書きながら気づいたことがある。

未知なる状況への恐怖。今、これが大きいのではないだろうか。
この状況について正解を持っている人は日本はおろか世界にもいない。

わからないこと、説明できないことは、、、怖い。

似たような状況が続いて社会全体が蝕まれてしまったのが14世紀のヨーロッパだ。
欧州全土で流行したペストにより当時の人口の3割以上が命を落とした。
猛威を振るう疫病を前に、人々はなすすべもなく倒れていく。
そんな中、当時生まれた死生観を表した芸術に『死の舞踏』がある。
死の恐怖を前に人々は半狂乱になり、倒れるまで踊り続けたという。
作品には擬人化された死が人々を墓場へ連れていく様子が描かれている。
人々は今、形を変えたこの死の舞踏を踊っているのかもしれない。

こんなときこそ自分なりの答えを探してみたい。
私は海外で生まれ、社会人になるまで諸外国を転々として育った。
外国暮らしが長かったこともあり、聖書の教えには慣れ親しんできた。
聖書を学ぶ人が最初に覚えるのがマタイの福音書だと思う。
イエス・キリスト曰く、最も大切な戒めは、次の二つ。

「あなたの神を愛せよ」

「あなたの隣人をあなた自身のように愛せよ」

私の父方の故郷は鹿児島ということもあり、我が家では幼いころから西郷隆盛が一番の偉人だ。その西郷先生が修正大切にした精神がかの有名な「敬天愛人」。
曰く、天を敬い、人を愛せよ、と。

最初にマタイの福音書を読んだときにこの教えとピタッとつながった。
調べてみると「敬天愛人」という言葉を日本で最初に提唱したのは中村正直というクリスチャンの教育者だそうだ。
儒学に存在した敬天という考え方に、キリスト教の隣人を愛せよという教えを取り込み、「敬天愛人」になったという。

今回のこの禍において、今あらためてこの教えから学ぶことは大きい。
生きていれば時としてどうしようもない事態が発生する。
そんなときは腹を括っていったん天に預けてみる。
そして自分の周りの人たちに優しくする。
ほんの少しの心意気がつながっていく。
考えてみれば東日本大震災の時にこのつながりを経験した。電車も間引き運転が続き、駅の出口も通勤時など行列をなしていた。でも誰も文句を言わずみんなで耐えた。ひとりひとりの少しの思いやりと我慢が社会を前へ動かした。

今、同じ心意気が求められている。

一説によると真田幸村は最後、鹿児島に逃げのびたという。
「日本一の兵」が薩摩に救いを求めたのはなんだかうれしい。


2019年4月 鹿児島県指宿市にて撮影



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